目次

1、BJH法とは

2、原理と測定手順

3、ヒステリシスによる細孔形状の推測

4、細孔分布図の見方



1、BJH法とは

BJH法とは、細孔容積の測定方法の一種で、試料への不活性ガスの吸着量と圧力から細孔容積を求める方法です。


細孔容積とは、試料に存在する細かい孔の容積のことで、細孔は径の大きさによってマイクロ孔、メソ孔、マクロ孔に分類されます。


細孔径の大きさによってガスが吸着する挙動が異なるため、BJH法で測定できる細孔容積はメソ孔(2nm)以上の径の細孔の容積になります。


それぞれの細孔径によって適切な分析方法が異なりますが、BJH法はメソ孔の細孔容積の測定方法としてIUPAC(国際純正応用化学連合)推奨の方法です。


BJH法の特徴として、全細孔容積だけでなく細孔径分布もわかり、BET比表面積と同様の操作を行うため同時に比表面積も測定できるという特徴があります。


また、ガスの吸着等温線と脱着等温線で生じた形状の差異から細孔の形状の推測することも可能です。


BJH法はBET法の延長線上にあるともいえる理論であるため、BET比表面積の原理を知っておくと、より理解しやすいかと思います。



因みに、BJH法の名前の由来は、BJH理論を導いたBarrett-Joyner-Halendaの3名の頭文字をとって名付けられています。

全細孔容積と平均細孔径
全細孔容積とは、測定した範囲のすべての細孔容積の積算値です。

BJH法の場合、2~1000nm程度の細孔径の積算細孔容積が全細孔容積になります。
(原理を考えると細孔径100nm以上の細孔の容積は精度が低下します。)


平均細孔径とは、全ての細孔が円筒状だと仮定したうえで、全細孔容積と比表面積から求めた細孔容積です。

分布頻度での中間を示すメディアン径とは異なるものですので注意が必要です。



2、原理と測定手順

先に簡単に原理を説明すると、

低温で試料に不活性ガスを物理吸着させ、ガス吸着量と細孔内で毛管凝縮が起こった際の圧力から細孔径と細孔容積を算出する

というものです。ここから詳細に説明していきますが、途中まではBET法と同じ手順です。


①試料の前処理を行う。
比表面積の高い物質は空気中の水分等を物理吸着するため、わずかに水分等が付着しています。


比表面積・細孔容積を測定する際に試料表面に別の物質が付着していると正しい比表面積を測定できないため、加熱を行い水分を揮発させます。


加熱により構造変化するものは減圧しながら低温加熱したり、低温で長時間加熱し続けることで構造を壊さずに水分を除去できます。


また、ガスをパージしながら加熱することで前処理時間を短縮できます。


②試料を冷却する。
測定機に試料をセットし、試料を冷却します。


大半の固体物質は冷却することで周囲のガス分子を引き付けるファンデルワールス力が強くなるため、冷却を行います。


測定には不活性ガスとして窒素ガスを用いられることが多く、窒素を用いる場合は液体窒素の温度まで冷却されます。


③不活性ガスを入れる
不活性ガスを装置に入れます。


まずは試料表面がガスの単層で覆われますが、投入量が増えてくにつれ圧力が増していき、ガス層は多層となって吸着していきます。


なお、比表面積が1m2/g以下の試料は不活性ガスの吸着量が少ないため窒素では測定精度が低下します。


この場合、窒素よりも飽和蒸気圧が小さく、空間に存在する分子数が少なくなるアルゴンやクリプトンを不活性ガスに使用します。


④ガス凝縮による吸着量の変化と圧力から細孔容積と細孔分布を求める
ガス凝縮が起こる際には急激な吸着量の増加が見られ、増加量から細孔容積を求めることができます。


また、凝縮が起こった際の圧力値から細孔径を求めることができ、細孔分布が得られます。

細孔容積

図の式から細孔径と相対圧力に相関性があることが分かります。


⑤ヒステリシスが生じる原理
ガスが試料に吸着する際の等温線と脱着する際の等温線は、細孔の無いものであれば理論上ほぼ同じ形を取ります。


しかし、何らかの理由で吸着時と脱着時の等温線の形が異なることがあり、吸脱着等温線の形状が不一致になる現象をヒステリシスと言います。


ヒステリシスが生じる理由の一つに毛管凝縮があり、BJH法ではヒステリシスがみられることが多いです。


液体が容器に入っているとき、界面張力によって液体の表面は容器壁面で曲線(メニスカス)をつくります。


メニスカスは容器の壁面が濡れているか乾いているかで、凸型になるか凹型になるかが変わってきます。


そのため、毛管凝集が生じる前後でメニスカスの状態が変わり、気体が脱着する条件でも細孔に吸着したままになったりすることがあります。


そのまま圧力を下げて行けば、吸着したままのガスも揮発しますが、吸着時とのずれが生じてヒステリシスが生じます。

計算の仮定
細孔容積の計算はどの手法でも仮定に基づいて計算されます。

BJH法の場合、次のような仮定がされています。

・細孔は全て円筒形状
・マイクロ孔は無い(毛管凝縮の理論が適用できないため)
 ※毛管凝縮は吸着ガス分子径の4~5倍以上の細孔径で無いと生じません。
  そのため、最小測定可能径は2nmとされています。
・最大相対圧ではすべての細孔が吸着ガスで満たされている



3、ヒステリシスによる細孔形状の推測

ガスが試料に吸着する際の等温線と脱着する際の等温線が何らかの理由で異なる形状になることがあり、この吸脱着等温線の形状が不一致になる現象をヒステリシスと言います。


ヒステリシスが生じる原理は「2、原理と測定手順」で紹介していますが、簡単にいうと毛管凝縮のせいです。


ガスの脱着のしやすさは細孔の構造によってことなるため、ヒステリシスの形状から細孔の形状や構造を推測することができます。


この推測はどのような細孔形状の時にどのようなヒステリシスが起こるかという既存研究の結果から推測しますが、ヒステリシスパターンも多種多様であるため細孔形状との結びつけは難しく、あくまで推測です。


図はIUPAC(国際純正応用化学連合)のヒステリシスの分類です。

スライド2

H1型:球形粒子の凝集体等に見られ、狭い細孔径分布のメソ細孔性物質やほぼ均一な粒子径の時に生じます。


H2型:多孔性配位高分子(PCP)や金属有機構造体(MOF)に見られ、細孔径分布及び細孔形状が複雑ではっきりとしていない時に生じます。

多様な細孔構造がある分類であるため、近年(a)(b)に細分化されました。 細孔径の大きさが比較的小さいと(a)大きいと(b)が生じます。


H3型:板状粒子の凝集体などに見られ、スリット状の細孔形状の時に生じます。


H4型:マイクロ孔が存在するか細孔径分布が非常に狭い粒子に見られ、スリット状の細孔形状の時に生じます。


H5型:部分的に閉鎖したメソ孔を含む細孔構造の時に生じます。

H2型の細分化と同様に近年追加された分類です。



4、細孔分布図の種類

細孔分布図は細孔径と細孔容積の相関図であり、BJH法に限らず表現方法が決まっています。


横軸はいずれも細孔直径ですが、縦軸には次の4種類が用いられます。

積算細孔容積
差分(dV)細孔容積
微分(dV/dD)細孔容積分布
Log微分(dV/d(logD))細孔容積




積算細孔容積分布

縦軸に積算細孔容積をプロットした細孔分布図です。


伸び幅の大きいプロット部分の細孔径の容積は大きく、水平に近いプロット部分の細孔径の容積は小さいことが分かります。


吸着ガスは小さい細孔径から吸着していくため、測定時の吸着等温線に最も形が近い細孔分布図です。




差分(dV)細孔容積分布

縦軸に測定ポイント間で増加した分の細孔容積をプロットした細孔分布図です。


一目で細孔容積の大きい細孔径帯が分かりますが、測定ポイントは等間隔で無いためざっくりとした容積の分布になります。


傾向がつかみにくいため、この差分を用いて計算した後述の細孔分布図で表示されることがほとんどです。




微分(dV/dD)細孔容積分布

縦軸に測定ポイント間で増加した細孔容積の微分値をプロットした細孔分布図です。


計算式の関係上、細孔径が小さいほど飛躍的に大きな数値を取るグラフとなります。


こちらも傾向が掴みにくいため主に次に紹介するLog微分の細孔分布図が使われます。


ただし、狭い範囲の細孔容積を見る時はLog微分ではなく微分細孔容積分布を用います。




Log微分(dV/d(logD))細孔容積

縦軸に差分細孔容積を細孔径の対数扱いの差分値で割った値をプロットした細孔分布図です。


積算細孔容積の変化を最も反映したグラフが得られるため、一目でどの細孔径の容積が大きいかが分かります。


細孔分布図で最も利用されるグラフです。




参考文献:株式会社島津製作所様HP